甘麦大棗湯
【頁内目次】…クリックして下さい。写真は中国の色々。
(Mainly treatment) 臓躁(夜泣き、ひきつけ、ぼんやりする、あくびがよく出る、眠りが浅い) |
【適応症】ヒステリー、てんかん、小児夜驚症、夜啼症、激しいけいれん性の咳(痰のない乾性の咳)、自律神経失調症、小児の夜泣き、ひきつけ、小児及び婦人の神経症、不眠症、チック症、舞踏病、泣き中風、笑い中風、そううつ病 |
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心血虚 » 心脾気血両虚(心血虚+脾気虚) » |
薬は効果(ベネフィット)のみだけでなく副作用(リスク)の可能性もあります。リスクをなるべく抑え、ベネフィットを最大限に引き出すことが大切なのです。薬を使用される方の理解と協力が大いに必要です。 【副作用】(ill effects) 特に副作用はありません。 |
【妊娠・授乳の注意】
●妊婦または妊娠の可能性のある人は、使用できない場合があります。 |
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中医学の証の解説
中医学(漢方)の治療目的は病邪を取り除き、病因を消し去り、陰陽(positive and negative principles)のバランス(balance)の乱れを正し、相関する臓腑の生理機能を調和・回復させることです。 中医学(漢方)の特徴は、身体全体を診るということです。 身体全体の調子(バランス)を整え、病気を治していきます。 ですから、病気の症状だけでなく、一人ひとりの体質も診断しなければなりません。 このときの身体の状態や体質をあらわすのが証(しょう)(constitution)という概念です。 この考え方は、西洋医学が臓器や組織に原因を求めていくのとは対照的です。 中医学(漢方)の良さは、薬そのものよりも、証にもとづき人を診るという、その考え方にあります。 |
次の症状のいくつかある方は、本方剤が良く効く可能性が大きいです。 |
【使用目標】 本方剤の適応する使用目標は次のとおりです。 ●神経の興奮があり、筋肉の緊張やけいれんがあって安眠できない。 ●不安や心配が心を満たし、無意味に悲しくなって気持ちが沈み暗くなる。 ●頻繁にあくびや背伸びをする。 ●奇妙な行動やおかしな動作をする。 ●神経的に疲れやすく、胃腸が弱い。 ●ストレスがたまりやすく、頻繁に八つ当たりをしてしまう。 |
【中薬大分類】安神剤…精神を安寧させる方剤です。重鎮安神・滋養安神の薬物を主体にして安神(精神安定)の効能を現す方剤です。 【中薬中分類】滋養安神剤…精神を滋養して安寧させる方剤です。陰血不足による虚陽偏亢で、焦燥・不安・動悸・不眠・易醒・多夢・盗汗(寝汗)・健忘・舌質が紅絳・少苔などの時に使用します。 |
裏熱虚(りねつきょ)
…証(体質・症状)が、裏証(慢性症状)、熱証(炎症)、虚証(虚弱)、気上衝(のぼせ・イライラ・緊張・不安)の方に適応します。
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【気血津液】…人体の生命を支える要素として、氣(qi)・血(blood)・津液(body fluid)の3つがあります。 ●血虚…血が不足している方が使用します。血の濡養(栄養・滋潤)作用の不足による症候で、広義での栄養不良状態に相当します。 皮膚につやがない、爪の色が悪い、頭のふらつき、目がかすむ、しびれ感などの症状を呈します。 |
【気血津・臓腑証】 心血虚(しんけつきょ)…適応する病態は「ヒステリー」に相当しますが、不安感・悲哀感・焦躁感・不眠あるいは浅眠・多夢が主体のものによく、いらいら・怒りっぽい方には適しません。 目標のひとつに「あくび」がありますが、胃陽不足による症候と考えられて、大棗・炙甘草によって改善されるものです。 大棗・炙甘草は止痛に働くので痙攣(、けいれん)にもある程度の効果があります。女性のみでなく男性にも用いてよく、小児のむずかり・夜泣きにも奏効します。 |
【証(病機)】心血虚(しんけつきょ) |
【中医学効能(治法)】 養心安神・健脾緩中・補血安神 |
【用語の説明】(term) 養心安神法(ようしんあんじんほう) »…心の陰血が不足して起こる心神不安の治療法です。 健脾(けんぴ) »…脾の働きです。脾胃の機能を正常にする治療法です。 補血(ほけつ) »…血を補うことです。=益血、養血。 血虚(けっきょ) »…体を栄養する血が不足した状態です。貧血などで栄養成分が不足した状態です。顔色不良、口舌が淡白、爪・毛髪につやがない、ふらつき、視力減退などがあります。 心血虚・心陰虚(しんけっきょしんいんきょ) »…心血虚・心陰虚;心の陰液の不足による症候で、主に精神不安があり、心拍動の異常があり、一般的な血虚・陰虚の症候が見られます。中枢の抑制過程の低下・自律神経系の過亢進・心筋の代謝異常などによる症候と考えられます。 |
【出典】
(source) 西暦250年 三国時代 『金匱要略』 校訂 →処方使用期間:1758年間 |
●心身の興奮や痙攣(けいれん)状態を改善 神経の著しい興奮状態を鎮め、様々な痙攣(けいれん)症状を和らげて治すために用いられる処方が、甘麦大棗湯です。 適応する主な病気には、ヒステリー、てんかん、ひきつけ、ノイローゼ、躁鬱病などをはじめ、震えが止まらないなどの症状を示す舞踏病、口をゆがめたり奇声を発するチック病、あるいは、神経的に差し込むような痛みの胃けいれん、ヒステリーの一種とされる子宮痙攣(けいれん)、百日ぜきのような痙攣(けいれん)性の咳(せき)などが挙げられます。この処方の対象となるような人は、腹直筋の特に右側が急激に引きつった状態になったり、過労による神経発作などを引き起こす場合があります。 処方される生薬の甘草も大棗も緩和薬なので、切迫した筋肉の引きつれ、神経の興奮、さまざまな体の痛みを和らげます。また、小麦も緩和、鎮静作用があり、特に精神に働いて脳神経の興奮を鎮めるのに有効です。構成生薬は以上の3種ですが、どれも甘味薬ということで服用しやすく、ひきつけ、夜泣きが激しいといった小児にも飲ませやすいでしょう。 ●気の疲れからくる胃弱にも有効 甘麦大棗湯に合う証は、虚証から中間証とされていますが、子どもの場合は実証にも用いられます。 この場合の虚証の診断では、特に気が弱まっていることが重視されます。「健全な肉体に健全な精神が宿る。また、その逆も真なり」というように、心と体はともに健全かつ健康でなければなりません。心をコントロールしている脳の神経細胞が疲れると、心もバランスを損ねます。そうして、体はある程度丈夫なのに気が衰えている人、気が弱まったために胃腸虚弱になった人、心身ともに疲れやすく、頻繁にあくびをするという人にも、この処方が応用されるのです。 ストレスが蔓延している社会で頑張り続けていると、心が傷付くこと、悩みを抱えることが、大小さまざまに身に降りかかってきます。それらをため込んでしまうと、それが脳の神経細胞から悪影響の信号として胃腸に送られてしまいます。胃腸が弱まると、さらに神経も疲れるという悪循環に陥りやすくなります。心身の良好なバランスを取り戻すためにも、甘麦大棗湯は強い味方になるでしょう。 |
●特に、頑張る女性を癒す優しい漢方薬 漢方薬の文献である中国の『金匱要略』(きんきようりゃく)に「婦人蔵躁」(ふじんぞうそう)という条文があり、甘麦大棗湯は主に女性に効くとされています。 現代社会において、女性は頑張って働いています。しかし、働きすぎてストレスがたまると、イライラが爆発してヒステリーを起こしたり、反対に悲観的になって何かと愚痴をこぼしたり、意味もなく悲しくなって泣いてしまうといった、一見、感情的な行為が男性よりも多く見られるようです。 イライラする感情は肝臓の機能低下に関係があるので、その解消には加味逍遙散を用いる場合もありますが、そのほかの胃腸の不調に伴う症状には、やはり甘麦大棗湯がよく効きます。 証に合うと、明るくプラス思考にしてくれ、心身ともに元気になります。 |
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【治療の特徴】 中医学(漢方)における治療の特徴は、「病気そのものにこだわらず、体質の改善によって健康に導く」ことと、 「自然の生薬(herb)を処方した漢方薬を使う」ことです。 生体における「気=エネルギー(energy)的なもの・肉体の機能や働き」、「血=血液」、「津液=体内水分」の3要素が身体をバランス(balance)良く循環することが大切だと考えます。 人間の健康は、これら「気」(陽)と「血・津液」(陰)の調和のもとに保たれています。「血・津液」は、原動力となる「気」のもとで初めて活性化され、全身を循環して五臓六腑に栄養を供給します。 この陰陽(positive and negative principles)が調和していれば、健康でいられますが、陰陽のバランスが崩れると、さまざまな病気が起きてくるのです。 |
【中薬構成】(herb composition)
構成生薬は小麦とナツメの実と醤油の味(甘味)付けに使う甘草の3種で、こんなものが薬になるのかと驚くような処方内容です。 |
病症・腹診・舌診・脈診について
病症は、この症状に当てはまることがあれば、効く可能性が大きいです。
症例・治例は、クリックして具体的な例をお読み下さい。
腹診は、お腹の切診です。日本漢方でよく使用されます。
舌診は、舌の状態の望診です。証の判定の有効な手段です。
脈診は脈の切診です。脈の速さは、確実に判定できますが、それ以外は難しい技術です。
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●処方名:甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)比較情報 |
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【合方】(複数の漢方薬を合わせた処方) 他剤との効用併用を示します。合方は良効なケースが多いです。 本方の証の方で、さらに次の症状がある方は、合わせて次の方剤を飲むと良く効きます。
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陰陽五行説
中医学のベースにあるのが、「陰陽五行説」と呼ばれる思想です。「陰陽論」と「五行説」の2つがいっしょになったものですが、どちらも自然や人体の観察から生まれた哲学的な思考法です。
陰陽論では、自然界のあらゆるものを「陰」と「陽」の、対立する2つの要素に分けて考えます。陰と陽は相反する性質をもっていますが、一方がどちらかを打ち負かしてしまうことのないように、常にバランスをとりあっています。自然界では、夜は陰で、昼は陽、月は陰で、太陽は陽、水は陰で、火は陽とされます。また、人体では、「五臓」が陰で、「六腑」が陽、背中が陽で、おなかが陰とされます。こうした陰と陽の分類は絶対的なものではなく、比較する相手によって変化します。たとえば、背中とくらべるとおなかは陰ですが、同じおなかでも上のほうは陽で、下のほうは陰となるといった場合です。
五行説では、自然界のさまざまな要素を「木」「火」「土」「金」「水」の5つの要素である「五行」に分けて考えます。これらの5つの要素には、それぞれ特徴的な性質があります。木はまっすぐ上に伸びる性質、火は燃え上がる性質、土は生み育てる性質、金は変化・収縮させる性質、水は下に流れて潤いをあたえる性質があるとされます。
それぞれの性質によって、五行は、お互いに助け合ったり、牽制し合ったりしながら、全体のバランスを保っています。五行が相互に助け合う関係を「相生」といい、牽制し合う関係を「相克」といいます。人体の「五臓」の間にも、こうした相生や相克の関係があり、五行説の考えかたは診断や治療にも生かされています。