加味帰脾湯
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(Mainly treatment) 心の気血両虚の動悸・倦怠・不眠/心脾気血両虚を治療する名方剤/脾不統血による出血/軽度の熱証と肝気鬱結を兼ねるもの/貧血傾向で不安感や神経症を伴う場合 |
【適応症】貧血、不眠症、精神不安、神経症、心身症、腸出血、子宮出血、胃潰瘍等による貧血と衰弱、白血病、再生不良性貧血、食欲不振、神経性心悸亢進、神経衰弱、月経不順 |
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心気血両虚 » 脾不統血(気不摂血) » 心脾気血両虚(心血虚+脾気虚) » 肝気鬱結 » |
薬は効果(ベネフィット)のみだけでなく副作用(リスク)の可能性もあります。リスクをなるべく抑え、ベネフィットを最大限に引き出すことが大切なのです。薬を使用される方の理解と協力が大いに必要です。 【副作用】(ill effects) 効果が現れないことはありませんが、副作用はほとんどありません。 |
【妊娠・授乳の注意】
●妊娠中の貧血の場合によく使用されます。 ●妊婦または妊娠の可能性のある人は、使用できない場合があります。 |
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中医学の証の解説
中医学(漢方)の治療目的は病邪を取り除き、病因を消し去り、陰陽(positive and negative principles)のバランス(balance)の乱れを正し、相関する臓腑の生理機能を調和・回復させることです。 中医学(漢方)の特徴は、身体全体を診るということです。 身体全体の調子(バランス)を整え、病気を治していきます。 ですから、病気の症状だけでなく、一人ひとりの体質も診断しなければなりません。 このときの身体の状態や体質をあらわすのが証(しょう)(constitution)という概念です。 この考え方は、西洋医学が臓器や組織に原因を求めていくのとは対照的です。 中医学(漢方)の良さは、薬そのものよりも、証にもとづき人を診るという、その考え方にあります。 |
次の症状のいくつかある方は、本方剤が良く効く可能性が大きいです。 |
【使用目標】 本方剤の適応する使用目標は次のとおりです。 ●体が衰弱して熱が出たり、寝汗をかく。 ●往来寒熱(寒気と熱感が交互に襲ってくる)がある。 ●心配ごとが多く、神経をよく使う。 ●顔色が青白い、または青黒く、貧血気味である。 ●精神不安があって動悸がする。 ●よく眠れず、取り越し苦労が多い。 ●もの忘れ(健忘)がある。 ●手足のほてり、のぼせ。 |
【八法】…補法:気血陰陽あるいは臓腑の虚損を補養する治法です。 |
【中薬大分類】補益剤…正気を補う方剤です。補益薬を主体にして正気の不足である虚証を改善する方剤です。扶正剤・補剤ともいいます。 【中薬中分類】補血剤…血を補う方剤です。血虚に対する方剤です。養血剤ともいいます。 |
裏熱虚(りねつきょ)
…証(体質・症状)が、裏証(慢性症状)、熱証(のぼせ・イライラ)、虚証(虚弱)、血虚(血流不足・貧血症状)、気虚(心身疲労)の方に適応します。
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【気血津液】…人体の生命を支える要素として、氣(qi)・血(blood)・津液(body fluid)の3つがあります。 ●気虚…氣が不足している方が使用します。氣の作用の不足で、全身の機能・代謝・抵抗力の低下や興奮性の低下などに伴う症候を現します。 疲れやすい、元気が無い、活力低下などを特徴とします。 ●血虚…血が不足している方が使用します。血の濡養(栄養・滋潤)作用の不足による症候で、広義での栄養不良状態に相当します。 皮膚につやがない、爪の色が悪い、頭のふらつき、目がかすむ、しびれ感などの症状を呈します。 |
【気血津・臓腑証】 心脾両虚の肝欝化火(しんぴりょうきょのかんうつけか)…心脾両虚に対する帰脾湯に、柴胡・山梔子を加えたものです。 食欲も元気もなく疲れやすい脾気虚の症候と、眠りが浅い・夢をよく見る・目が覚めやすい・不安感・悲哀感・焦躁感などの心血虚の症候を基本とし、そのうえに軽度のいらいら・抑うつ・緊張・のぼせ・ほてり・怒りなどの肝欝化火が加わった場合に用います。 帰脾湯が心脾両虚を改善し、柴胡・山梔子が肝欝化火を緩解することになります。 |
【証(病機)】心脾虚兼肝火旺(しんひきょけんかんかおう) |
● > 女性の使用が多い方剤です。 |
【中医学効能(治法)】 気血双補・補気(脾)・養心安神・清熱・養血・摂血・疏肝 |
【用語の説明】(term) 気血双補剤(きけつそうほざい) »…補気剤と補血剤の構成を合方したものになります。ただし、血虚は多くの場合気虚に不随して発生するので、気血双補剤の主体は補気にあります。 補脾(ほひ) »…脾の機能を高めることです。 養心安神法(ようしんあんじんほう) »…心の陰血が不足して起こる心神不安の治療法です。 清熱(せいねつ) »…熱をさますことです。身体の内部の熱を冷ますことです。体表の熱の場合は解熱といいます。 心脾両虚(しんぴりょうきょ) »…心と脾の機能が同時に落ちた状態です。食欲不振や不眠が起ります。 肝火上炎(肝火旺)(かんかじょうえんかんかおう) »…肝の陽気の過亢進によるもので、虚証の徴候がみられないのが特徴です。自律神経系の過亢進・中枢神経系の興奮・異化作用の亢進あるいは炎症による症候と考えられます。 |
【出典】
(source) 西暦1253年 宋時代 『済生方』 厳用和 →処方使用期間:755年間 |
【備 考】
(remarks) ●帰脾湯から加味帰脾湯へ 加味帰脾湯のベースになっている帰脾湯は、『済生方』という処方集が原典とされています。『済生方』は中国南宋時代の漢方医・厳用和によって編纂されたため、正式には『厳氏済生方』といい、厳氏が試用して有効だった450余りの処方が選録されているものです。 ところが、そこに紹介されている帰脾湯の構成生薬は、実は12種類でなく、当帰と遠志が入っておらず、10種類だったといわれています。そして、後に明の時代の医者であった醇立斉によって、当帰と遠志が加えられ、現在の帰脾湯の基本となる処方がつくられたのだそうです。 さらに、より衰弱して熱っ齢、人にも使えるように、柴胡・牡丹皮・山楯子が加味され、日本人に合った加味帰脾湯が生まれました。 |
●低下した造血・消化機能を改善 加味帰脾湯は、帰脾湯という処方をベースにつくられました。 帰脾湯は、顔色が悪く、貧血気味で、精神不安、動悸、健忘(もの忘れ)があり、熟睡できない、寝汗や熱が出る、あるいは、手足がだるくて疲れやすく寝てばかりいる、便秘がある、などの症状がみられる場合に用いられます。このような人は、もともと虚弱体質気味で、病後や産後のように著しく体力が低下している場合が多く、自分とは関係ないことまで心配したり、各種の異常出血が起こったり、特に女性の場合は月経不順の傾向があったりします。 これらの症状は、考えごとが多すぎて脾を痛め、脾気(脾を機能させる気)も衰えて食欲が落ち、心臓や肝臓の血液を調節できなくなるために起こる、と考えられてきました。漢方でいう脾は全身の血液を統括する臓器であり、造血および消化機能に関連すると考えられています。それが気の影響によって貧血や消化機能の低下につながり、体のあちこちで症状を引き起こす原因になります。現代医学的にいえば、精神身体反応の一種と考えられる状態です。この状態を改善し、脾と脾気を正常な状態に戻し(帰し)ていくのが帰脾湯なのです。 ●さらに生薬を加味して穏やかな薬効に 処方にもよりますが、漢方薬には、構成生薬の数が増えるほどその効き目が穏やかになる、という性質があります。帰脾湯は、12種類の生薬で構成された補薬(体力を補う薬)であるため、その効き目はやさしく、食欲を進めて気分をよくし、利尿にも有効です。例えば、十全大補湯や補中益気湯など、ほかの補薬で胸がもたれるときや、誤った薬の服用などで胃腸を痛め、六君子湯や補中益気湯を用いても効果が得られないときに帰脾湯が役に立つ、と古書にも書かれています。しかしながら日本では、個々人の体質の違いもありますが、帰脾湯よりも加味帰脾湯の方が多く用いられています。 加味帰脾湯は、帰脾湯に、柴胡・牡丹皮・山梔子を加え、全15種類の生薬で構成された処方です。基本的には、帰脾湯の証に準じますが、さらに体が衰弱し、手足がほてる、のぼせる、微熱が出て往来感熱(寒気と熱感が交互にやってくる)がある、などの症状も加わります。江F時代に書かれた『梧竹楼方函口訣』(ごちくろうほうかんくけつ)では婦人虚労(疲れて衰弱した状態)の薬とされており、体液を失い、精力が消耗して衰弱し、やせている女性によく用いられます。このように、加味帰脾湯は、帰脾湯よりもさらに穏やかな処方で、脾と脾気ともに栄養を与えてくれる漢方薬なのです。 |
左の写真は当帰の花です。 当帰の作用は次の通りです。 ●補血作用…血の機能を高め、身体の栄養分を補います。 ●行血作用…子宮を収縮して、瘀血(流れの滞った状態の血液)を排出したり、子宮の痙攣を抑えます。 ●潤腸作用…腸内の水分不足を改善し、便秘に効果を発揮します。 ●調経作用…月経を調節します。 ●鎮静作用…気持ちを静める作用です。 |
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【治療の特徴】 中医学(漢方)における治療の特徴は、「病気そのものにこだわらず、体質の改善によって健康に導く」ことと、 「自然の生薬(herb)を処方した漢方薬を使う」ことです。 生体における「気=エネルギー(energy)的なもの・肉体の機能や働き」、「血=血液」、「津液=体内水分」の3要素が身体をバランス(balance)良く循環することが大切だと考えます。 人間の健康は、これら「気」(陽)と「血・津液」(陰)の調和のもとに保たれています。「血・津液」は、原動力となる「気」のもとで初めて活性化され、全身を循環して五臓六腑に栄養を供給します。 この陰陽(positive and negative principles)が調和していれば、健康でいられますが、陰陽のバランスが崩れると、さまざまな病気が起きてくるのです。 |
中薬(成分生薬)の解説
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1.人参・黄耆・白朮・茯苓・甘草(炙甘草)・大棗は、全身の機能を高め代謝を促進し、消化吸収を強め、元気をつけ疲労感を除き抵抗力を増す(補気健脾)。また、たんぱく合成・造血・免疫能増強に働きます。 2.白朮・茯苓は、組織中や消化管内の余剰水分を血中に引き込んで利尿によって除く(利水)。 3.当帰・竜眼肉・酸棗仁・遠志は栄養物を含み、体を栄養・滋潤します(補血)。 4.竜眼肉・酸棗仁・遠志・茯苓は鎮静・催眠作用をもち、不安感・焦燥感を除く(安神)。当帰・白朮・大棗も鎮静に働きます。 5.人参・黄耆は、脳の興奮性を高めます。 6.木香・生姜は、胃腸の蠕動を強めて消化吸収を補助し(理気)、止嘔、止瀉にも働きます。 7.柴胡・山梔子は、精神的ストレスによる緊張・抑うつ感・いらいら・のぼせ・ほてりなどを鎮静させ、自律神経系の緊張や亢進を緩解させます(疏肝清熱)。 8.全体で、代謝や機能を促進して止血因子の補充や血管平滑筋の緊張を高めることにより、出血を防止します。 (参考) 本方は、元気をつけ消化吸収を強める補気健脾の薬物と、精神安定・栄養補給の補血安神薬の配合による「気血双補」の処方で、さらに精神的ストレスを解消する疏肝の薬物が配合されています。 精神的ストレスに伴う「気血両虚」の状態に適しています。 |
【中薬構成】(herb composition)
帰脾湯に柴胡と山梔子を加えたものを加味帰脾湯と言います。 |
病症・腹診・舌診・脈診について
病症は、この症状に当てはまることがあれば、効く可能性が大きいです。
症例・治例は、クリックして具体的な例をお読み下さい。
腹診は、お腹の切診です。日本漢方でよく使用されます。
舌診は、舌の状態の望診です。証の判定の有効な手段です。
脈診は脈の切診です。脈の速さは、確実に判定できますが、それ以外は難しい技術です。
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●処方名:加味帰脾湯(かみきひとう)比較情報 |
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陰陽五行説
中医学のベースにあるのが、「陰陽五行説」と呼ばれる思想です。「陰陽論」と「五行説」の2つがいっしょになったものですが、どちらも自然や人体の観察から生まれた哲学的な思考法です。
陰陽論では、自然界のあらゆるものを「陰」と「陽」の、対立する2つの要素に分けて考えます。陰と陽は相反する性質をもっていますが、一方がどちらかを打ち負かしてしまうことのないように、常にバランスをとりあっています。自然界では、夜は陰で、昼は陽、月は陰で、太陽は陽、水は陰で、火は陽とされます。また、人体では、「五臓」が陰で、「六腑」が陽、背中が陽で、おなかが陰とされます。こうした陰と陽の分類は絶対的なものではなく、比較する相手によって変化します。たとえば、背中とくらべるとおなかは陰ですが、同じおなかでも上のほうは陽で、下のほうは陰となるといった場合です。
五行説では、自然界のさまざまな要素を「木」「火」「土」「金」「水」の5つの要素である「五行」に分けて考えます。これらの5つの要素には、それぞれ特徴的な性質があります。木はまっすぐ上に伸びる性質、火は燃え上がる性質、土は生み育てる性質、金は変化・収縮させる性質、水は下に流れて潤いをあたえる性質があるとされます。
それぞれの性質によって、五行は、お互いに助け合ったり、牽制し合ったりしながら、全体のバランスを保っています。五行が相互に助け合う関係を「相生」といい、牽制し合う関係を「相克」といいます。人体の「五臓」の間にも、こうした相生や相克の関係があり、五行説の考えかたは診断や治療にも生かされています。