黄耆建中湯
【頁内目次】…クリックして下さい。写真は中国の色々。
(Mainly treatment) 脾陽虚証の慢性消化器病 |
【適応症】児童の虚弱体質、病後の衰弱、夜尿症、夜泣症、軽度の慢性腹膜炎、盗汗(ねあせ)、慢性中耳炎、痔、カリエス、アレルギー性鼻炎、皮膚潰瘍、慢性中耳炎。 |
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脾陽虚(脾陽不振・脾陽虚弱・脾胃虚寒) » 胃虚寒(胃気虚・胃気虚寒) » |
薬は効果(ベネフィット)のみだけでなく副作用(リスク)の可能性もあります。リスクをなるべく抑え、ベネフィットを最大限に引き出すことが大切なのです。薬を使用される方の理解と協力が大いに必要です。 【副作用】(ill effects) 証が合わなかった場合には、発疹(ほっしん)、かゆみなどの過敏症状が現れることがあります。 |
【妊娠・授乳の注意】
●妊婦または妊娠の可能性のある人は、使用できない場合があります。 |
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中医学の証の解説
中医学(漢方)の治療目的は病邪を取り除き、病因を消し去り、陰陽(positive and negative principles)のバランス(balance)の乱れを正し、相関する臓腑の生理機能を調和・回復させることです。 中医学(漢方)の特徴は、身体全体を診るということです。 身体全体の調子(バランス)を整え、病気を治していきます。 ですから、病気の症状だけでなく、一人ひとりの体質も診断しなければなりません。 このときの身体の状態や体質をあらわすのが証(しょう)(constitution)という概念です。 この考え方は、西洋医学が臓器や組織に原因を求めていくのとは対照的です。 中医学(漢方)の良さは、薬そのものよりも、証にもとづき人を診るという、その考え方にあります。 |
次の症状のいくつかある方は、本方剤が良く効く可能性が大きいです。 |
【使用目標】 本方剤の適応する使用目標は次のとおりです。 ●虚弱体質、あるいは体力が衰えて疲れやすい。 ●自然発汗、寝汗をかく。 ●汗で肌着が黄ばむ(黄汗)。 ●腹痛が絶えない。 ●動悸・息切れがする。 ●皮膚が乾燥しやすい。 ●不眠、あるいは貧血気味である。 ●背中がつっぱる、体がだるい・重いなど脱力感がある。 |
【八法】…温法:温裏・散寒・回陽・通絡などの効能により、寒邪を除き陽気を回復し経絡を通じて、裏寒を解消する治法です。 |
【中薬大分類】温裏(補陽)剤…体内を温める方剤です。即ち、裏寒を改善する方剤です。 【中薬中分類】温中散寒剤…中焦の冷え(裏寒)に用いる方剤です。中焦脾胃の陽気が虚衰して、運化と昇陽が不足し、腹痛・腹満・食欲不振・口渇がない・下痢・悪心・嘔吐・舌苔が白滑・脈が沈細または沈遅の症候がみられます。 |
裏寒虚(りかんきょ)
…証(体質・症状)が、裏証(慢性症状)、寒証(冷え)、虚証(虚弱)の方に適応します。
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【気血津液】…人体の生命を支える要素として、氣(qi)・血(blood)・津液(body fluid)の3つがあります。 ●気虚…氣が不足している方が使用します。氣の作用の不足で、全身の機能・代謝・抵抗力の低下や興奮性の低下などに伴う症候を現します。 疲れやすい、元気が無い、活力低下などを特徴とします。 |
【気血津・臓腑証】 肝気虚(かんききょ)…肝気の疏泄不足・昇発不足は主として情緒面にあらわれ、気力がない・やる気が出ない・ため息・憂うつ・情緒不安定などがみられます。 また、消化器系への影響として食欲不振・腹が脹る・食べると腹満が強くなる・噯気(げっぷ)・排便がスムーズでないなどの症候が生じ、肝の蔵血への影響として手足のふるえ・視力障害・しびれなども伴います。経絡上は肝経の走行に一致した症状もみられ、胸脇部から側腹・下腹に及ぶ膨満苦悶感が生じることも多いです。こうした症候は、一見すると肝気欝結に類似していますが、「疏泄の停滞」ではなく「疏泄の不足」によって生じているので、肝気を補うことが必要となります。 疏肝理気を主体にすると、肝気がさらに疲弊して症候を強める結果になります。また、肝は腎と同様に、肝血・肝陰の滋潤によって肝気・肝陽が機能するので、肝気を補う場合には肝血・肝陰を滋潤する必要があり、肝血・肝陰を滋潤することにより肝気を正常化させることを「柔肝」といいます。以上から、肝気虚に対しては「肝気を補って疏泄・昇発を強め、肝血・肝陰を滋潤して柔肝し、疏肝理気の薬物を少量加えて肝の疏泄を補助する」ことが必要になります。 |
【証(病機)】肝気虚(かんききょ) |
【中医学効能(治法)】 補気固表・緩急止痛・温中補虚 |
【用語の説明】(term) 補気(ほき) »…気を補う=益気のことです。 止痛(しつう) »…痛みを止めることです。 温中(おんちゅう) »…中焦=脾胃を温めることです。 補虚瀉実(ほきょしゃじつ) »…足りないもの、虚を補って、いらないもの、実を出すという治療原則のことです。 肝気(かんき) »…肝は西洋医学で言う肝臓も含め自律神経、ホルモン系の調整機能、血の貯蔵、精神機能などを有し、これらの機能を総称して肝気といいます。肝機能のことで、全身へ気を良く巡らせる働きをします。 |
【出典】
(source) 西暦250年 三国時代 『金匱要略』 校訂 →処方使用期間:1758年間 |
【備 考】
(remarks) ●目安は小建中湯の証より虚弱な方 一口に、虚弱体質あるいは体力が衰えているといっても、黄蓍建中湯を用いるためには、「小建中湯」の証を多少でも知っておいた方が目安になります。 小建中湯に当てはまる証の人は、気力も体力もあまりない虚弱体質で栄養も血色もよくない人であり、疲れやすい、寝汗をかく、手足がほてる、動悸がするなど黄蓍建中湯の証とほぼ同じです。生薬は、芍薬、桂枝、生姜、大棗、甘草、膠飴の6種で構成されており、腹痛を和らげ、胃腸の調子をよくするとともに、体力を付け、体を丈夫にする働きがあるのです。ここに、保養剤の長(おさ)といわれる黄蓍を加えた処方が、その名が表すとおりの黄蓍建中湯となります。 つまり、同じように気力・体力が弱く、疲れやすい状態であっても、小建中湯の証に比べて、より一層の栄養不足で気力がさらに弱く、黄蓍を必要とする人に最適なのが黄蓍建中湯ということです。日ごろからの生活パターンや体力のあり方、気力の持続力などを、よく自己分析してみるとよいでしょう。 |
●慢性病や体力低下時の強い味方 健康体で普通の体力の持ち主でも、過労、不規則な生活などが続いてストレスがたまると疲れやすくなり、気力・体力ともに落ち込んでしまいます。そのため、不眠気味、眠れても寝汗をかいてしまう、動悸・息切れがする、絶えず脱力感を覚える、といった状態に陥りがちです。そして、このような状態が長い間続いてしまうと、慢性胃炎、肝炎、潰瘍、胃腸神経症などの心配が浮上してきます。このような場合は、黄蓍建中湯を試してみるとよいでしょう。 黄蓍建中湯は、もともと虚弱体質の人のために処方された漢方薬であり、構成される7種類それぞれの生薬が穏やかで確かな効果を発揮します。特に、慢性になりやすい胃腸障害(神経症、潰瘍、便秘など)はもとより、アレルギー性鼻炎、慢性中耳炎などにも用います。また、体力が衰えてしまう大病を患った後や手術後などに用いて回復力を高めるほか、皮膚からばい菌が入って化膿するおでき(カルブンケル、フルンケル)や、皮膚下が化膿する症状の寒性膿瘍(かんせいのうよう)、肛門の横などに穴ができて治りにくい痔瘻(じろう)(別名「穴痔(あなじ)」)など、長い間化膿が続いている場合に用いると、新しい肉が再生するように働き、治していく効果もあります。 |
●桂枝湯類の証から建中湯類の証への変化 同じ虚証でも、小建中湯に黄蓍を加えた黄蓍建中湯は小建中湯よりさらに体力の弱い人に用います。では、小建中湯は何から生まれたかというと「桂枝加芍薬湯」に膠飴を加えて処方されており、体力的には桂枝加芍薬湯より少し下回ります。つまり、建中湯類を体力的な見地からさかのぼると桂枝湯類へと変化していくのが漢方薬の簡単な特徴なのです。 反対に、黄蓍建中湯の証よりさらに虚弱な体質の場合は当帰を配合する処方があり、これを「帰蓍建中湯」(別名「蓍帰建中湯」)といいます。この処方は日本で新たに作られたもので、血液の状態が悪い場合に当帰がその改善に役立ちます。 つまり、強弱の幅はあるものの、簡単に表すと「体力のある証=桂枝湯類>体力の弱い証=建中湯類」と変化していくのです。 |
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【治療の特徴】 中医学(漢方)における治療の特徴は、「病気そのものにこだわらず、体質の改善によって健康に導く」ことと、 「自然の生薬(herb)を処方した漢方薬を使う」ことです。 生体における「気=エネルギー(energy)的なもの・肉体の機能や働き」、「血=血液」、「津液=体内水分」の3要素が身体をバランス(balance)良く循環することが大切だと考えます。 人間の健康は、これら「気」(陽)と「血・津液」(陰)の調和のもとに保たれています。「血・津液」は、原動力となる「気」のもとで初めて活性化され、全身を循環して五臓六腑に栄養を供給します。 この陰陽(positive and negative principles)が調和していれば、健康でいられますが、陰陽のバランスが崩れると、さまざまな病気が起きてくるのです。 |
【中薬構成】(herb composition)
主要部分は防已・黄耆・白朮で、これに緩和薬であり補性薬である甘草と生姜・大棗の組を加えた方剤です。 |
病症・腹診・舌診・脈診について
病症は、この症状に当てはまることがあれば、効く可能性が大きいです。
症例・治例は、クリックして具体的な例をお読み下さい。
腹診は、お腹の切診です。日本漢方でよく使用されます。
舌診は、舌の状態の望診です。証の判定の有効な手段です。
脈診は脈の切診です。脈の速さは、確実に判定できますが、それ以外は難しい技術です。
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●処方名:黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)比較情報 |
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陰陽五行説
中医学のベースにあるのが、「陰陽五行説」と呼ばれる思想です。「陰陽論」と「五行説」の2つがいっしょになったものですが、どちらも自然や人体の観察から生まれた哲学的な思考法です。
陰陽論では、自然界のあらゆるものを「陰」と「陽」の、対立する2つの要素に分けて考えます。陰と陽は相反する性質をもっていますが、一方がどちらかを打ち負かしてしまうことのないように、常にバランスをとりあっています。自然界では、夜は陰で、昼は陽、月は陰で、太陽は陽、水は陰で、火は陽とされます。また、人体では、「五臓」が陰で、「六腑」が陽、背中が陽で、おなかが陰とされます。こうした陰と陽の分類は絶対的なものではなく、比較する相手によって変化します。たとえば、背中とくらべるとおなかは陰ですが、同じおなかでも上のほうは陽で、下のほうは陰となるといった場合です。
五行説では、自然界のさまざまな要素を「木」「火」「土」「金」「水」の5つの要素である「五行」に分けて考えます。これらの5つの要素には、それぞれ特徴的な性質があります。木はまっすぐ上に伸びる性質、火は燃え上がる性質、土は生み育てる性質、金は変化・収縮させる性質、水は下に流れて潤いをあたえる性質があるとされます。
それぞれの性質によって、五行は、お互いに助け合ったり、牽制し合ったりしながら、全体のバランスを保っています。五行が相互に助け合う関係を「相生」といい、牽制し合う関係を「相克」といいます。人体の「五臓」の間にも、こうした相生や相克の関係があり、五行説の考えかたは診断や治療にも生かされています。