安中散
【頁内目次】…クリックして下さい。写真は中国の色々。
(Mainly treatment) 脾陽型の胃痛(慢性潰瘍など)/裏寒の疼痛/胃寒証(胃に寒邪が侵入) |
【中国主治】(Chinese Mainly treatment) 治急慢性胃痛反胃、泛酸、寒邪氣滯、停積不消、腹脇脹痛及婦人經痛。 |
【適応症】神経性胃炎、慢性胃炎・胃酸過多症、胃アトニー、胃・十二指腸潰瘍、胃腸病、胃炎、胃潰瘍による胃痛、神経性の胃痛、胃下垂、幽門狭窄、悪阻(つわり)、月経痛、低酸症 |
【中国臨床應用】(Mainly treatment) 胃寒痛、慢性胃炎、胃、十二指腸潰瘍、胃酸過多、胃下垂、胃弛緩、幽門狹窄、胃癌、經痛、妊娠惡阻。 |
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食滞胃脱(胃中停食) » 脾陽虚(脾陽不振・脾陽虚弱・脾胃虚寒) » 胃寒 » |
【中国辨證】(Dialectic) (1)胃?脹痛。 (2)舌淡苔白。 (3)喜熱飲。 (4)泛酸。 (5)?寒性痛經。 |
薬は効果(ベネフィット)のみだけでなく副作用(リスク)の可能性もあります。リスクをなるべく抑え、ベネフィットを最大限に引き出すことが大切なのです。薬を使用される方の理解と協力が大いに必要です。 【副作用】(ill effects) 証が合わなかった場合に、むくみ、血圧上昇、脱力感、手足のしびれ、痙攣(けいれん)、発疹(ほっしん)などがまれに起こることがあります。 |
【注 意】(Remark)
×残念ながら、熱証(ほてり・炎症など)の方は、禁忌(きんき)(服用を避ける)です。 |
【妊娠・授乳の注意】
●妊婦または妊娠の可能性のある人は、使用できない場合があります。 |
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中医学の証の解説
中医学(漢方)の治療目的は病邪を取り除き、病因を消し去り、陰陽(positive and negative principles)のバランス(balance)の乱れを正し、相関する臓腑の生理機能を調和・回復させることです。 中医学(漢方)の特徴は、身体全体を診るということです。 身体全体の調子(バランス)を整え、病気を治していきます。 ですから、病気の症状だけでなく、一人ひとりの体質も診断しなければなりません。 このときの身体の状態や体質をあらわすのが証(しょう)(constitution)という概念です。 この考え方は、西洋医学が臓器や組織に原因を求めていくのとは対照的です。 中医学(漢方)の良さは、薬そのものよりも、証にもとづき人を診るという、その考え方にあります。 |
次の症状のいくつかある方は、本方剤が良く効く可能性が大きいです。 |
【使用目標】 本方剤の適応する使用目標は次のとおりです。 ●慢性の胃痛がある。 ●胸やけする。酸っぱい水を吐く。 ●みぞおちに膨満感(ぼうまんかん)がある。 ●胃部を押すと、ピチャピチャと水音がする(胃内停水)。 ●血色が優れず、冷え症である。 ●神経質である。 ●甘い物が好きである。 |
【八法】…温法:温裏・散寒・回陽・通絡などの効能により、寒邪を除き陽気を回復し経絡を通じて、裏寒を解消する治法です。 |
【中薬大分類】温裏(補陽)剤…体内を温める方剤です。即ち、裏寒を改善する方剤です。 【中薬中分類】温中散寒剤…中焦の冷え(裏寒)に用いる方剤です。中焦脾胃の陽気が虚衰して、運化と昇陽が不足し、腹痛・腹満・食欲不振・口渇がない・下痢・悪心・嘔吐・舌苔が白滑・脈が沈細または沈遅の症候がみられます。 |
裏寒虚(りかんきょ)
…証(体質・症状)が、裏証(慢性症状)、寒証(胃寒・冷え)、虚証(虚弱)、湿証(水分停滞)の方に適応します。
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【気血津液】…人体の生命を支える要素として、氣(qi)・血(blood)・津液(body fluid)の3つがあります。 ●気滞…氣の働きがうまくいっていない方が使用します。氣の循環に停滞をきたした病態です。もっとも気滞に関連が深いのは内傷七情(喜・怒・憂・思・悲・恐・驚)と呼ばれる精神的ストレスで、「病は気から」と認識されているものです。 内傷七情は情緒系・自律神経系に影響して肝気欝結と呼ばれる抑うつ緊張の状態などを生じさせ、これに伴って各部位の気滞を引き起こします。 ●水液停滞…余分な水があまっている方が使用します。津液の停滞のことで、西洋医学的には細胞内液・組織液・リンパ液などが、主として組織間・消化管内・体腔内に異常に停滞したことを意味します。 中医学では湿・痰飲・水腫と呼ぶのが一般的で、日本では水毒ともいわれます。 |
【気血津・臓腑証】 胃寒の疼痛(いかんのとうつう)…空腹時の軽度の疼痛・上腹部膨満感・呑み酸を目標として使用します。やや温める傾向の鎮痛剤です。 |
寒凝気滞(かんぎょうきたい)…寒冷刺激による気滞に用います。温性の理気薬を主体とした理気剤です。 |
【証(病機)】胃寒実(いかんじつ) |
【中医学効能(治法)】 温中散寒・理気・止痛・止嘔・制酸 |
【用語の説明】(term) 温中(おんちゅう) »…中焦=脾胃を温めることです。 散寒(さんかん) »…寒さの邪気を追い出すことです。 止痛(しつう) »…痛みを止めることです。 理気(りき) »…理気:気の流れを良くすることです。気(氣)を正常に巡らせ機能を回復する治療法です。 温中散寒法(おんちゅうさんかんほう) »…温・熱性の生薬を用いて脾胃を温め、腹痛や冷え下痢などを治療する方法です。類語:温裏散寒法(おんりさんかんほう) |
【出典】
(source) 西暦1107年 宋時代 『和剤局方』 陳思文 →処方使用期間:901年間 |
【備 考】
(remarks) ●古くから重宝されてきた名処方 安中散の処方は、中国の宋代に作られた『和剤局方』という優れた漢方薬を集めた書物に掲載されており、古くから良薬として用いられてきました。現在の日本においても多くの製薬会社から販売されている非常に有名な処方です。 安中散に含まれている、生薬の桂枝、小茴香、縮砂、良姜には胃の調子を整える作用があり、延胡索、甘草には胃の痛みを和らげる働きがあります。さらに、カキの殻である牡蛎にはカルシウムが含まれているため、胃酸を中和する作用と精神を安定させる作用があります。これらの生薬の協力へ作用によって、胃痛や胸やけなどの症状がスッと楽になります。 早い人は飲み始めて2〜3回で効果が見られます。症状が治まったら服用をやめてしまって構いません。安中散は、証が合えば素早く効果が現れますし、味もそれほど苦くないため飲みやすく、副作用もほとんどない非常に穏やかな良薬です。 |
●現代人の胃のトラブルに安中散 やせ型で普通の人より体力がなく、夜中や空腹時に胃がシクシクと痛む、または胃がムカムカして食欲がないなどの状態が、長く(およそ半年以上)続いている方なら、安中散を試してみるとよいでしょう。 安中散は、神経性胃炎や胃・十二指腸潰瘍による慢性的な胃痛、あるいは胃酸過多症による胸やけや胃もたれに効きます。急性の耐え切れないほどの激しい痛みではなく、鈍い胃の痛みが慢性的に長く続いているような場合が適しています。また、やせている人や若い女性に多い胃下垂症や胃アトニー症のほか、幽門狭窄、胃の腫瘍に伴う症状、冷えによる腸の疵痛にも効果があります。さらに、胃酸過多とは反対の症状、つまり胃酸に含まれる塩酸が減少する減酸症にも有効です。相反する症状に対しても効果があるのは、本来の健康な状態を取り戻すことにより症状を和らげていくという漢方薬独特の作用によるものです。 体力が中程度あるいはそれ以下の人で、神経質、冷え症気味、血色が悪い、甘い物好きなどの証が適応の目安となります。 胃が疲れている、または胃の働きが弱っている人は、みぞおち辺りに手をあてると皮膚が冷たく、気持ち悪いと感じます。それは、胃の働きを補うために血液が胃に集まり、皮膚の血行が悪くなっているためなのです。安中散を服用するときには、胃を温めるために、温めたお酒を用いることが望ましいとされています。お酒が苦手な人は、薄めた酢や塩湯でも構いません。それらが用意できない場合でも、微温湯で服用することを心掛けてください。 |
●女性のつらい月経痛にも安中散 安中散は、女性の神経性の腹痛や月経痛にも効果があります。やせ型で、冷え症や胃下垂症がある、あるいは胃痛や胸やけを起こしやすい女性が使用の目標となります。また、この処方が合う人は、甘い物が好きな人が多いようです。証が合えば、つらい冷え症も月経痛もいっぺんに解消することができます。 生薬の牡蛎に含まれるカルシウムには制酸作用のほかに精神安定作用もあるため、神経質でイライラしがちだったり、ヒステリーを起こしたりする女性にも向いています。専門家は、このような症状が見られる場合には、牡蛎を多く配合することもあるようです。このように、患者1人ひとりに合った特別の配合ができることも、漢方薬ならではの特徴といえるでしょう。 |
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【治療の特徴】 中医学(漢方)における治療の特徴は、「病気そのものにこだわらず、体質の改善によって健康に導く」ことと、 「自然の生薬(herb)を処方した漢方薬を使う」ことです。 生体における「気=エネルギー(energy)的なもの・肉体の機能や働き」、「血=血液」、「津液=体内水分」の3要素が身体をバランス(balance)良く循環することが大切だと考えます。 人間の健康は、これら「気」(陽)と「血・津液」(陰)の調和のもとに保たれています。「血・津液」は、原動力となる「気」のもとで初めて活性化され、全身を循環して五臓六腑に栄養を供給します。 この陰陽(positive and negative principles)が調和していれば、健康でいられますが、陰陽のバランスが崩れると、さまざまな病気が起きてくるのです。 |
中薬(成分生薬)の解説
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1.桂皮・良姜・薗香・延胡索・縮砂はすべて「温性薬」で、粘膜を充血させ、循環を強めて腹を温める効果がある(温中散寒)。 2.桂皮・良姜・延胡索・牡蛎は鎮痛に働く。 3.茴香・縮砂は制吐・鎮嘔に働く。 4.延胡索・甘草(灸甘草)は平滑筋の痙攣(けいれん)を抑制する(止痙)。 5桂皮・茴香・良姜・縮砂は、蠕動を促進して消化吸収を補助する(理気)。 6.牡蛎は制酸作用をもつ。 7.延胡索は軽度の抗うつ作用をもつ。 (補足) 本方は、冷えによる腹痛に適応し、補益性はない・やせ型とか体力の低下とか神経質などとはあまり関係がない。 |
【中薬構成】(herb composition)
桂枝・甘草・延胡索・良姜・牡蛎は桂枝加芍薬湯の変形と見られます。つまり、芍薬に代わって心下痛にはより効果の強い延胡索が入っていますし、生姜の代わりに、同類でより効果の強い良姜が、大棗の代わりに良姜の中和薬として牡蛎が入っていると考えられます。牡蛎には胃酸過多中和作用があり、良姜の熱作用を中和するのにも役立ちます。縮砂・茴香は桂枝とともに芳香性健胃薬、良姜は辛辣性健胃薬で、これに鎮痛薬の延胡索、胃酸過多中和薬の牡蛎、緩和薬の甘草が加わって、安中散が構成されています。 |
●方 解
本方為治脾胃?寒、氣血凝滯而引起胃痛腹痛之要方。 方中桂枝散鬱血;?邪止痛,延胡索能通血中之氣滯及氣中之血滯,而治?外諸痛;牡蠣散結制酸;砂仁、茴香、良薑、皆?胃順氣而散寒痛,甘草緩急和中止痛。 |
病症・腹診・舌診・脈診について
病症は、この症状に当てはまることがあれば、効く可能性が大きいです。
症例・治例は、クリックして具体的な例をお読み下さい。
腹診は、お腹の切診です。日本漢方でよく使用されます。
舌診は、舌の状態の望診です。証の判定の有効な手段です。
脈診は脈の切診です。脈の速さは、確実に判定できますが、それ以外は難しい技術です。
各説明ボタンをクリックしてお読みください。
●処方名:安中散(あんちゅうさん)比較情報 |
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【合方】(複数の漢方薬を合わせた処方) 他剤との効用併用を示します。合方は良効なケースが多いです。 本方の証の方で、さらに次の症状がある方は、合わせて次の方剤を飲むと良く効きます。
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【中国藥方加減】(Dialectic) 1.臍腹動悸:加茯苓。 2.停積不消:加枳實、厚朴。 3.婦人?滯:加三稜、莪朮。 4.妊娠嘔吐:加半夏、茯苓。 |
中医学のベースにあるのが、「陰陽五行説」と呼ばれる思想です。「陰陽論」と「五行説」の2つがいっしょになったものですが、どちらも自然や人体の観察から生まれた哲学的な思考法です。
陰陽論では、自然界のあらゆるものを「陰」と「陽」の、対立する2つの要素に分けて考えます。陰と陽は相反する性質をもっていますが、一方がどちらかを打ち負かしてしまうことのないように、常にバランスをとりあっています。自然界では、夜は陰で、昼は陽、月は陰で、太陽は陽、水は陰で、火は陽とされます。また、人体では、「五臓」が陰で、「六腑」が陽、背中が陽で、おなかが陰とされます。こうした陰と陽の分類は絶対的なものではなく、比較する相手によって変化します。たとえば、背中とくらべるとおなかは陰ですが、同じおなかでも上のほうは陽で、下のほうは陰となるといった場合です。
五行説では、自然界のさまざまな要素を「木」「火」「土」「金」「水」の5つの要素である「五行」に分けて考えます。これらの5つの要素には、それぞれ特徴的な性質があります。木はまっすぐ上に伸びる性質、火は燃え上がる性質、土は生み育てる性質、金は変化・収縮させる性質、水は下に流れて潤いをあたえる性質があるとされます。
それぞれの性質によって、五行は、お互いに助け合ったり、牽制し合ったりしながら、全体のバランスを保っています。五行が相互に助け合う関係を「相生」といい、牽制し合う関係を「相克」といいます。人体の「五臓」の間にも、こうした相生や相克の関係があり、五行説の考えかたは診断や治療にも生かされています。